干物でフードロス対策に挑む仲卸業者の新たな取り組みに迫る

卸売市場とフードロス問題

移転した直後の豊洲市場
移転した直後の豊洲市場

卸売市場日本一の物量と取扱金額を誇る中央卸売市場、豊洲市場。ご存知のとおり主に魚を扱う市場です。一見すると私たちが思うフードロスの現場とは離れているように思えます。

しかし、流通を支えるここ卸売市場だからこそできるフードロス減少の取り組みを、市場の仲卸業者が取り組んでいるというのです。

豊洲市場には毎日膨大な量の野菜・果物・魚介類・その他加工品などの食材が毎日全国各地、はたまた全世界から入荷し、セリや相対で取引されています。

その中には魚にキズがあったり一部が欠けていたり、サイズがばらばらだったりと、いわゆる『訳あり品』として安く買い叩かれてしまったり、廃棄されてしまったりするものもあります。

そうした、魚を軸にしたフードロスに取り組む豊洲市場の仲卸業者をご紹介します。

深刻な食品ロス(フードロス)問題


食品ロス(フードロス)とは、まだ食べることができるにも関わらず廃棄されてしまう食品のことをいいます。

フードロス問題はSDGsにも関連しており、消費者が見た目がきれいで整ったものを求めた結果、生産地においては規格外品が廃棄されてしまったり、売れない商品が大量に発生してしまったりといったことが起きています。

日本では、年間2,550万トン(※)の食品廃棄物等が出されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は612万トン。

これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量(平成30年で年間約390万トン)の1.6倍に相当します。

また、食品ロスを国民一人当たりに換算すると”お茶腕約1杯分(約132g)の食べもの”が毎日捨てられていることになるといいます。

SGDsとは?

SDGsはエスディージーズと読み、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことをいいます。

2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。

SDGsは、2000年に国連のサミットで採択された「MDGs(エムディージーズ/ミレニアム開発目標)」が2015年に達成期限を迎えたことを受けて、MDGsに代わる新たな世界の目標として定められました。

フードロスに取り組む豊洲市場の仲卸「瀬古」

フードロス減少に少しでも力になりたいと働きかけているのが、豊洲市場に店舗を構える創業100年の老舗塩干品専門仲卸、株式会社瀬古(以下、瀬古さん)の代表取締役社長である瀬古和幸さん。

仲卸業者はスーパーなどの小売店やレストランといった飲食店などに食材を卸売する役割を担っています。

瀬古さんは干物やしらす、いくらや明太子などの魚卵、漬魚類など「塩干品」と呼ばれる家庭の食卓に近い商品を専門に取り扱っています。

卸売業者というとマグロを解体したり丸の魚を販売したりというイメージがありますが、瀬古さんは仲卸一般の消費者にも近い立場といえるかもしれません。

さらに、瀬古さんはなんと創業100年の歴史を持つ老舗企業でもあります。豊洲市場の前身となる築地市場のさらに前、日本橋魚河岸時代から魚で商売を営んできました。

その仲卸がなぜ今になって食品ロスやSDGsに取り組むようになったのでしょうか?

瀬古さんの想い

瀬古さんはまもなく創業100周年を迎える豊洲市場の老舗仲卸です。しかしただの魚の目利きではなく、魚食文化を理解し、広く未来へ継承していける企業を志しているそうです。

幼い頃から日常的に様々な魚を食べてきたという瀬古さんは、現代において魚離れが進んでいる原因は「本当に美味しい魚が食べられなくなっているから」と語ります。

世界的な需要増による水産物の高騰や、家庭での調理時間短縮の思いが高まっていった結果、私たちが日常的に美味しい魚を手に入れる機会は少なくなってしまいました。

傷ものになってしまった干物を全量まとめて買い取る

瀬古さんが見せてくれたこちらの干物。一見すると普通のホッケとアジの干物なのですが、これは一部が欠けていたりキズのあるものを加工した商品だそうです。

干物を製造する段階で、魚の頭が取れてしまったり傷がついたり、さばく時に失敗したり、尾が折れたりなど、実は毎日数パーセントの魚が通常どおり販売できないものとして発生してしまうのだそうです。

生産者にとってはそのまま捨て値でどこかに販売するよりも、信頼できる売り手へ全てまとめて販売したい。そして、見た目は少し不格好だけど本当に美味しいものを提供したい瀬古さん。

2者の要望が合致し、

瀬古さんは信頼できるメーカーと協力し、こうした訳あり品を全量買い取る形でまとめて購入し、なるべく価値をつけて販売しようという動きを行っています。

未来の100年を創る仲卸の挑戦は続く

こうした動きが可能になったのも、普段から同メーカーの商品を販売し、作り手の気持ちを理解しているから。

作り手としては傷があるとはいえ味に遜色のない美味しい干物です。せっかくなら信頼できる売り手に販売してもらいたいですよね。

未来にわたり持続可能で美味しい魚を食べられる世の中を作っていくため、仲卸の挑戦は続きます。

『次世代のおさかな好きを創る』をテーマに毎日更新中!