マダイの養殖イメージ

卸売市場法改正のポイント『直荷引き禁止』の原則廃止ってどういうこと?何がどう変わる?

2020年6月に施行される改正卸売場法。市場法の改正点などの概要は前回の記事をご覧ください。

前回の記事

日本の成長戦略を議論する「未来投資会議(議長:安倍晋三首相)」において議論が進められている『卸売市場法』の改正。いったい何がどう改正されるのか?施行はいつからなのか?改正の理由や押さえておくべきポイント(とくに水産部門)を、鮮魚流通[…]

豊洲市場のマグロのセリの様子

大きなポイントである、仲卸による『直荷引き禁止』の原則廃止

卸売市場法の改正点で注目されているポイントの一つが、市場内の仲卸業者による『直荷引き(じかにびき)禁止』の原則廃止です。

これ、実は業界的にはけっこうスゴイことだと思っているんですが、一般には馴染みがないため、まったくなんだかわからない話ですよね。

ということで、この規制緩和によって何が変わるのか?何が起こる可能性があるのかを鮮魚流通のプロであるめだか水産が解説いたします。

そもそも直荷引きとは?

直荷引きとは、仲卸業者(以下、仲卸)が産地やメーカー等から卸売業者(以下、大卸)を介さずに商品を仕入れることを言います。

豊洲市場など中央卸売市場内の仲卸は、卸売市場法により市場内の大卸を通して商品を仕入れなくてはならないことになっているのです。

産地市場から出荷された鮮魚は、大卸に販売を委託する(荷を受ける)形で仲卸が仕入れます。

その際に販売手数料として5.5%がかかるのですが、産地から直荷引きの形であればもちろん5.5%はかからなくなります。

大手スーパー等は直荷引きしている

大手スーパーマーケットで販売されている魚の多くは、安定した品質と価格で仕入れることができる養殖魚や冷凍魚、練り製品や切り身などの加工品です。(例:マグロ、タイ、ブリ、サーモン、サケなど)

これらの養殖魚や冷凍魚は中央卸売市場から仕入れているわけではなく、養殖場や海外などからの直接仕入れによって仕入れられている場合が多いのです。

近年では水産物の卸売市場の経由率は年々減少し、現在では約50%となっています。

加工品などの需要が増えた結果、卸売市場を通さずメーカーから直接購入したほうがメリットがあるということですね。

参考:農林水産省ホームページ「卸売市場をめぐる情勢について」 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sijyo/info/attach/pdf/index-33.pdf

市場経由率が減少し直荷引きが増えている背景

数十年前から一般の家庭の食品購入先としてスーパーマーケットが台頭してくることで、有力な産地は卸売市場に荷を送らずスーパーと直接取引を始めるようになりました。

その結果大卸に荷が集まらなくなり、大卸から仕入れなくてはならないルールに縛られている仲卸は、中小スーパーや大手飲食店チェーンなどの顧客のニーズに応えることが困難になっていきます。

そして有力な仲卸は大卸から仕入れるのではなく、産地などから直接仕入れる『直荷引き』をするようになってきます。

直荷引き可能な例外もある

直荷引きは2019年現在のところ原則禁止ですが、原則禁止ということは例外があるということです。現在でも条件付きで直荷引きは可能となっています。

以下、農林水産省ホームページの資料(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sijyo/info/pdf/siryo4_05.pdf)より抜粋しました。

【法第44条、施行規則第28条】

仲卸業者は、第33条第1項の許可を受けて仲卸しの業務を行う中央卸売市場における業務については、次の各号に
掲げる行為をしてはならない。ただし、第2号に掲げる行為については、仲卸業者がその許可に係る取扱品目の部類に属
する生鮮食料品等を当該中央卸売市場の卸売業者から買い入れることが困難な場合であつて、農林水産省令で定める
基準に従い、業務規程で定めるところにより、開設者が当該中央卸売市場における取引の秩序を乱すおそれがないと認
めたときは、この限りでない。

<農林水産省令で定める基準>

  1. 仲卸業者が、買い入れて販売しようとするものの品目、数量、相手方等を記載した申請書を開設者に提出して許可を受けて
    いる場合
  2. 当該市場の卸売業者が、他の卸売市場において卸売の業務を行う者とあらかじめ締結した集荷の共同化その他の卸売の業
    務の連携に関する契約に基づき、当該他の卸売市場の卸売業者から買い入れる場合(市場間連携)(市場取引員会の審議
    を経る必要)
  3. 仲卸業者が、農林漁業者等及び食品製造業者等との間であらかじめ締結した新たな国内産の農林水産物の供給よる需要
    の開拓に関する契約に基づき、当該農林漁業者等から買い入れる場合(業者間連携)

引用元:農林水産省ホームページ 食品別の規格基準について

うーん、つまり例外的に認められているものの、この法のままでは直荷引き仕入れの主流にはならなそうな感じですよね。

この規制ルールが廃止された市場法が、2020年6月に施行されるってことなんです。

直荷引きが増えると何が起きるのか?

仲卸が産地とダイレクトにつながるようになるかもしれない

加工品を扱う一部の仲卸は別として、これまで仲卸と産地が直接やりとりすることはほとんどありませんでした。

また、鮮魚に関して言えば産地は出荷した市場でどの仲卸が自分の魚を買っているのかもわからないことが普通です。

筆者は産地の出荷業者とも付き合いがあるのですが、どの仲卸が自分の魚を買っているかを大卸に聞くのはタブーらしいです。

それが規制緩和によって直接やりとりできるようになる可能性があるため、仲卸は産地へダイレクトに顧客の要望を伝えられるようになります。

小さな視点で見ると、たとえば寿司店向けの高級食材を扱いたい・開発したいとき、寿司店の要望をかみ砕いて産地に伝えるのは普段から寿司店と付き合いがあるため、仲卸は得意とすることでしょう。

そうした流れができれば、市場や仲卸が活発化してより日本の食文化がユニークになっていくのかもしれません。

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