うなぎってどこで生まれてどこで死ぬの?どんな生態?
土用の丑の日を通して私たちに馴染みの深い魚の一つにうなぎが挙げられます。毎年7月の土用の丑の日にはデパートやスーパー、魚屋さんなどではうなぎの蒲焼コーナーが大変盛り上がりますよね。
そんなうなぎですが魚の形やその料理などはよく知られていますが、生態について知っている人は少ないのではないでしょうか?この記事を読んで、土用の丑の日に先駆けてうなぎの生態にばっちり詳しくなっちゃいましょう!
※本記事で紹介するうなぎは標準和名ニホンウナギAnguillajaponicaとしています。
そもそもうなぎってどんな魚?
分類と名称
- 標準和名:ニホンウナギ
- 学名:Anguilla japonica
- 分類:ウナギ目ウナギ科ウナギ属
基本的にうなぎといえばこのニホンウナギを指す場合が多いですが、近年では外国産のうなぎであるヨーロッパウナギAnguilla anguillaやアメリカウナギAnguilla rostrataも輸入され蒲焼きなどで消費されています。
面白い生態:ネバネバの粘液に包まれている
うなぎの体は全身が粘液に包まれています。そのため掴もうとしてもヌルヌルして滑りやすく、元気の良いものはなかなか掴むのが大変です。
粘液は鰻以外の魚の体にも分泌しています。しかしうなぎは粘液の量が格段に多くなっているのです。粘液は水の中の細菌類が体に入ってくるのを防いでいるほか、住み家である石の下や岩の裂け目に身を潜めるときに傷から身を守るのにも役立っています。
うなぎの呼吸にもねばねばが役立つ!?
魚は皆さんがご存知のようにエラで呼吸をしています。普通の魚は水から出るとエラから酸素が取り込めなくなり、呼吸が出来なくなって死んでしまいます。
しかし、うなぎは水から出てもなんとしばらくは元気に生きていることができるのです。それはうなぎがエラ以外に皮膚からの呼吸を可能としているからです。これを『皮膚呼吸』と言います。
うなぎはなんと必要な酸素の半分くらいを皮膚から取り込むことができると言われています。うなぎの粘液が体の表面の水分を保っているため、乾燥を防ぐとともに空気中の酸素を粘液の中に取り込んで、呼吸が可能となっています。
たしかにうなぎが売られている魚市場でも、ザルのような水の溜まらない容器に入れられて、上からシャワーのように水を流すようにしてほとんど水が溜まっていない状態で流通されています。
面白い生態:目は良くないけど犬並みの嗅覚!
うなぎは目があまり良くありません。しかしその分、鼻が非常に優れています。うなぎは夜行性のため夜になってはじめて餌を取りに出かけます。
夜はもちろん暗いので目が良くなくても問題ありません。むしろ鼻が利くほうが夜行性の魚にとっては都合がいいのです。嗅覚は後述する産卵の際に生まれ故郷まで帰っていく際にも役に立っているともいわれています。
面白い生態:すごいスタミナの持ち主
うなぎは淡水と海水の両方に適応できるうえ、水から出てもしばらく元気で生きている、産卵のために何千キロも海を泳いでいくなど、すごいスタミナの持ち主です。これにあやかろうと夏バテの時期に日本人はうなぎを食べるんですね!
面白い生態:うなぎは性転換する魚!!
うなぎにも人間と同じようにもちろんオスとメスがあります。実はうなぎは生まれた時はオスとメスが決まっていません。成長していてだいたい20cmぐらいになると、オスとメスが決まるようになります。
オスメスを決める要因は水温やストレスなどがあるそうですが、はっきりした情報は見つかりませんでした。
魚類には成長していくうちに性転換をする生態をもつものが意外と多いです。ファインディングニモで有名になったカクレクマノミが性転換の魚種のいい例ですね。
養殖うなぎはほとんどがオス!?
養殖したうなぎはほとんどがオスになると言われています。私たちが食べているうなぎはほとんどがオスということですね。なんとも不思議な生態です。
オスとメスは外見での判断ができない
さらにうなぎのオスとメスは外見からでは違いがわかりません。オスとメスを確認するためには一匹お腹を開かないといけないというのも非常に大変なポイントです。
期待されている完全養殖が難しい理由にはこういった点もあるんですね。いずれは殺さずにオスメスを判別できるようになってほしいものです。
うなぎの一生
うなぎは一生のうち何度も姿と名前を変化させていきます。ここからがうなぎの生態の本番です!いわば生活史ともいえます。
稚魚の生態:プレレプトセファルス
卵から生まれたうなぎはまだ目も口もありません。生まれてから数日の状態のうなぎをプレレプトセファルスといいます。口もないのでもちろん自力では餌をとることのできない状態です。
稚魚の生態:レプトセファルス
口や目がが発達し餌を取り始めたプレレプトセファルスは、レプトセファルスと呼ばれるようになります。レプトセファルスは柳の葉っぱのように薄く平べったくてペラペラの形をしています。ここまでは到底うなぎとは思えない奇妙な形をしています。
レプトセファルスの体は非常に軽く、広い海を流れる、海流に乗る生態に適した体形です。また半透明なので外敵に見つかりにくく、捕食されにくいようになっています。
同じようにレプトセファルスの段階を経る魚には、アナゴやハモなどがあります。アナゴのレプトセファルスは『のれそれ』や『どろめ』として日本においては食用にされており、季節の珍味として珍重されています。
レプトセファルス期には『マリンスノー』と呼ばれる、海中のプランクトンの死骸やエビやカニの幼生など海中の微生物を食べているといわれています。親のうなぎと全く違う生態なんです。
幼魚の生態:シラスウナギ
レプトセファルスが4ヶ月から6ヶ月ほど成長して6cm程度になると、シラスウナギと呼ばれる、いわゆるうなぎの形に変態します。シラスウナギは親とほとんど同じ形をしていますが、体が透明なのが特徴です。
シラスウナギになると海から河口(川が海に注ぎ込んでいる地点)に集まるようになります。河口は汽水といわれ塩水(海水)と真水(淡水)が混じって存在しています。川での生活に向けて河口で淡水に体を慣らしていくのです。
うなぎの養殖はこのシラスウナギを捕まえて、出荷サイズまで餌を与えて大きくしてから出荷する、というやり方をとっています。これを畜養(ちくよう)ともいいます。
筆者は神奈川県の江ノ島でシラスウナギを獲っている人を見たことがあります。あれは許可を得た漁師だったのかそれとも密漁だったのかそれは分かりません…
幼魚の生態:クロコ
シラスウナギは秋から冬になると川にやってくるようになります。川に入って成長したシラスウナギは、春ごろになると黒色素細胞が発達して、体色が黒ずんでミニチュアサイズのうなぎの形になります。この状態をクロコやクロッコと呼びます。
クロコは川を上り始めどんどん上流まで行って、自分の住み家となる場所を探して行きます。
成魚の生態:黃うなぎ
川を上って住み家を決めたうなぎは、日中は岩場の陰や石の下などの暗い巣穴の中に隠れています。しかし夜になると巣穴から出てきて、小魚やエビカニ、昆虫、カエルやミミズ、小動物などなんでも獰猛に食べるようになります。その一方で敵も多く、人間に釣り上げられたり罠にかかったり、鳥や哺乳類などにもよく狙われます。生態系ピラミッド(古い考え方ですが)でいえば割と上のほうかもしれませんね。
この時期のうなぎは生息環境にもよりますが、背中は茶色から黒色でお腹は黄色くなります。
養殖うなぎと天然うなぎの見分け方
養殖うなぎは体色が全く違い、養殖うなぎの背中はから灰色お腹は真っ白です。これが天然うなぎと養殖うなぎを見分けるポイントにもなります。とはいえうなぎ流通量のうち99%以上が養殖なので、天然うなぎなんてお目にかかることはほとんどないのですが…
成魚の生態:銀うなぎ
川で5年から10年過ごしたうなぎは体が全体的に黒く金属光沢を持つようになります。これを銀うなぎと呼びます。海に行く準備を始めると銀色になるのはサケ(マス)も同様ですね。
うなぎは回遊魚
このように、成長段階や環境の変化に合わせて生息場所を変化させる生態をもつ魚を『回遊魚(かいゆうぎょ)』といいます。サケのように海で育ち川に産卵に向かう生態の魚を『遡河回遊魚(そかかいゆうぎょ)』といいます。うなぎのように川で育ち海に産卵に向かう生態の魚は『降河回遊魚(こうかかいゆうぎょ)』といいます。
※うなぎは川に上らず海や汽水域で育つものもいますので降河回遊が完全に当てはまるわけではありません。
銀うなぎになると海へ降る準備が開始されます。体が目立って変化して、口先が尖って目が大きくなり、胸鰭も黒く大きくなり浮き袋も発達します。そして体に脂肪をたくさん溜め込むようになり、生殖腺の発達が始まります。
うなぎは生殖腺の成熟が始まると産卵して死んでしまうまで餌を食べないと言われています。この点もサケと同じですね。
うなぎの産卵
成熟したうなぎは、いよいよ川を下って海を目指していきます。それまで育った川を下って、日本沿岸を流れる黒潮に乗りながらもはるばる産卵場所であるグアム島やマリアナ諸島沖に向かって泳ぎ、そこで産卵して一生を終えます。
この産卵場所は今まで仮説はあったものの、まったく謎に包まれていました。しかし2000年代に入って日本人研究者たちによる調査の結果、日本から数千キロ離れたマリアナ諸島沖のスルガ海山付近がうなぎの産卵場所だと判明しました。
生態の研究は完全養殖に必要不可欠
うなぎは天然の資源に頼らない『完全養殖』がもっとも期待されている魚種のひとつです。
前述したように、養殖用のシラスウナギを捕獲して育てる(畜養)うなぎの養殖は、天然資源に負のインパクトを与えています。
完全養殖を行うには産卵方法はもちろん各成長段階での餌となる生物や栄養、生育環境、成熟の仕組み、効率的な成長方法など基本的な生態を知る必要があります。
完全養殖に向けてはまだまだ大量生産ができる段階にはなく、もっと稚魚の餌のコスト減や死亡率の低減などの効率化が実現しなければ、商業的には成りたたないようです。これからもうなぎのニュースには注目ですね!
[amazon-primeday2023-eel]うなぎの生態まとめ:うなぎは何千kmにも及ぶ旅をする不思議な魚
ということで、ここまで記事を読んでいただきありがとうございます。うなぎの生態について少しでも、詳しくなった!と思って頂けたら幸いです。
うなぎは生まれてから海を泳ぎ、川を上り、産卵のために川をまた降り、遠い海で産卵する。そんな何千キロもの旅をする不思議なステキな魚だということがお分かり頂けたでしょうか。
これ以降の記事ではうなぎの文化的な背景や完全養殖についてなどを解説していきます。よろしくお願いいたします。