養殖ヒラメに寄生虫!?
ヒラメといえばお刺身やお寿司、昆布〆に利用される大変美味しい高級魚。透明感のある美しい白身と味が良いことから日本や韓国などで広く養殖されています。
そんなヒラメから『クドア・セプテンプンクタータ』(以下、クドア)という寄生虫が発見され、食中毒を引き起こすとして近年話題になっているってご存知ですか?
この記事では魚の流通や生態に詳しいプロの目線で、養殖ヒラメ、天然ヒラメに感染する寄生虫クドアについて調べてみた結果を皆さんにわかりやすくお伝えします!
養殖ヒラメに寄生するクドア・セプテンプンクタータについて
クドアってどんな寄生虫?
和名:ナナホシクドア
分類:ミクソゾア門粘液胞子虫綱多殻目クドア属
宿主※:ヒラメParalichthys olivaceus
※しゅくしゅ:寄生虫などが寄生する対象となる生物のこと。
クドアはミクソゾア門粘液胞子虫綱多殻目クドア属に属する、粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう)とよばれる寄生虫のグループの一種です。広くいえばクラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物の仲間とされ、ほとんどが魚類の寄生虫だそうです。
主に養殖ヒラメなどの筋肉(人間が食べるところ)に寄生し、クドアが寄生したヒラメを食べることで人間に一過性の嘔吐や下痢を引き起こすクドア食中毒を発症します。
目には見えない小さな寄生虫
『寄生虫』というとアニサキスやシュードテラノーバなどのようにうねうね動き回る気持ち悪いものを想像しがちですが、むしろそうした人間の目に見える寄生虫はごく一部です。寄生虫の多くは人間の目には見えない微細なものです。
ヒラメに寄生するクドアも非常に小さな寄生虫で、大きさは約10μm(マイクロメートル)。皆さんがご存知の単位に直すと0.01mmです。なんと1mmの百分の一の大きさ。もちろん目には見えず顕微鏡を使わないと観察できません。
寄生された魚の行動も肉質も変わらない
クドアは養殖ヒラメのほかマグロやタイ、カンパチなどに寄生することが判明しています。養殖ものだけでなく天然のヒラメにも寄生しますが、養殖ヒラメと比べるとその数は少ないようです。そしてクドアが寄生しても、魚の見た目や肉質、行動などには変化がないため、外観では発見することが不可能です。
筋肉を溶かすジェリーミート!?
粘液胞子虫類の寄生虫にはクドア・セプテンプンクタータ以外にもたくさんの種類が存在しますが、人体に影響がある粘液胞子虫は今のところクドア・セプテンプンクタータのみとされています。
これまでヒラメやサバ、アジ、カレイなどに寄生し筋肉をドロドロに溶かしてしまう『ジェリーミート』という現象(クドアの仲間Kudoa thyrsitesによる)や、筋肉中にシストと呼ばれる胞子の袋を形成することで商品にならなくなる現象が水産業界では有名でした。しかし人体には影響はないため、クドアをはじめとする粘液胞子虫があまり一般に知られることはありませんでした。
筆者も何度もヒラメなどのジェリーミートやシストでクレームをいただくことがありました。外見では判別できず、お客様がさばいてみて初めて発覚するものなので非常にやっかいです。
クドアによる食中毒が問題に。人体への影響は?
原因不明の下痢や嘔吐の報告
近年、ヒラメなどを食べたことによるクドア食中毒が大きな話題になっています。2009年に愛媛県でヒラメを原因とする食中毒で100名以上の患者が出たことで一般に一気にクドアの知名度が上がりました。その後、クドアが食中毒の原因であることが判明し、養殖場ではヒラメについてクドアの検査や養殖状況の改善が行われるようになりました。
平成23年から平成29年における生食用(お刺身やお寿司など)の生鮮ヒラメによるクドアの食中毒発生状況は、計189件、患者数は2,118名です。
アニサキスよりも多い!?
魚の食中毒で最も有名なアニサキスによる患者数が、平成28年には126名だったのに対し、ヒラメによるクドアの食中毒は259名です。なんとあれだけ話題になっていたアニサキスよりも患者数が多いとは…。
いずれも一過性の嘔吐や下痢などの軽症
養殖ヒラメに寄生するクドアによる食中毒は食後数時間のうちに下痢や嘔吐が認められるのが特徴です。いずれも一過性で、重症化することはなく短時間で回復します。
人間に寄生することはない
養殖ヒラメに寄生するクドアは人間に寄生することはありません。また、人間から人間へ寄生することもありません。
韓国産のヒラメがクドアにより輸入検査強化!
2019年5月30日、韓国産の養殖ヒラメを原因とする食中毒が日本国内で相次いでいることから、厚生労働省は韓国産ヒラメの輸入検査強化を発表しました。
韓国産活ヒラメによるクドア食中毒件数
韓国産活ヒラメ(活きたヒラメ)によるクドア食中毒は、平成27年(2015年)に62名、平成28年(2016年)に113名、平成29年(2017年)に47名、平成30年(2018年)に82名とされています。前述した患者数のうち半数近くが韓国産ヒラメのようですね。
韓国産活ヒラメはほとんどが養殖
日本に輸入される韓国産ヒラメはほとんどが養殖ものです。活きたまま鮮度を保って輸入され、回転寿司やスーパーのお刺身などに利用されています。筆者の印象では、クドアが有名になった平成23年から、韓国産養殖ヒラメを扱う量販店や飲食店がぐっと減ったような気がしています。
予防方法は?
国内では予防が進められている
2012年に農林水産省が国内のヒラメ養殖場にクドア食中毒防止策を通知しており、ヒラメ養殖場ではクドアが寄生していない稚魚の導入や出荷前の検査、飼育環境改善などによる取り組みが行われています。
その結果、国内産の養殖ヒラメによるクドア食中毒は極めて少なくなっているそうです。養殖のヒラメでも国産のものを選んでおけばリスクはかなり低減できるかもしれません。