世界では年々養殖魚の生産量が増加しているってご存知ですか?日本では養殖魚というとなんとなく天然よりもランクが低いイメージ、天然魚の代用としてのイメージをお持ちの方も多いと思いますが、それは世界的にはまったくの誤解です。
本記事では養殖魚や養殖業をとりまく現状や課題、意外と知らない養殖のメリットやデメリット、日本の養殖業の新たな取り組みなどをご紹介します。
世界の漁業・養殖業生産量の推移
世界では生産量は年々増加傾向
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30/attach/pdf/30suisan_3-3.pdf
前回の記事でも紹介したとおり、世界ではここ数十年で魚介類の生産量が増加し続けています。平成29年(2017年)の漁業・養殖業を合わせた生産量は前年より3%増加して2億559万トンとなりました。
天然の水産物生産量は横ばい。資源には限度がある
しかしながら、天然の魚介類を漁獲する海面漁船漁業は先進国を中心に、おおむね横ばいか減少傾向にあります。日本も顕著に漁獲量が減少しています。サンマやホッケなどの不漁は皆さんの記憶に新しいと思います。
世界の水産資源は過剰に漁獲されている状態(乱獲状態)のものが増加しており、FAO(国連食糧農業機関)は、流通している主な魚の3分の2は、集団を維持できる以上のレベルで捕獲されていると指摘しています。水産資源の持続可能な利用が世界各国に求められているのです。
増加分は実は海面・内水面養殖業
図のとおり、世界では水産業は非常に成長している産業のひとつです。増加している生産量は、実は養殖によるものが大きいのです。
海面養殖業とは、沿岸で海水を使って魚、貝、海藻などを養殖することを指します。内水面養殖業とは河川、池、沼など淡水(真水)で淡水生物を養殖することを指します。
ちなみに世界で最も盛んに養殖されている魚は何だと思いますか?実はよく目にするサーモンやサケ、タイなどではなく、コイ科のソウギョやサバヒー(ネズミギス目サバヒー科)なのではといわれています。
ちなみに日本で最も養殖されている魚はブリ(ハマチ)で、海面養殖の総生産量の約40%を占めています。
ブリは冬が旬なことは有名ですよね。余談ですが、実は天然のブリは夏場になると脂のりが悪くなり、かなり味が落ちます。そんな中、養殖ブリは天然ものの味が落ちる夏場でも美味しく食べられる素晴らしい食材だと思います。
世界では淡水養殖も増加している
日本では淡水の養殖魚というとアユやニジマス、ウナギなどそこまで日常的に食べるイメージのない魚が多いですが、世界的には淡水養殖は非常に重要です。
世界の養殖生産量の多くを占める中国には、四大家魚という代表的な養殖魚が存在します。青魚(アオウオ)、草魚(ソウギョ)、白連(ハクレン)、黒連(コクレン)の4種類ですが、これらはすべて淡水魚です。
日本の養殖業生産額
平成29年(2017年)の日本の漁業・養殖業の生産額は、1兆6,075億円でした。
このうち海面養殖業(海での養殖)の生産額は5,250億円で、内水面養殖業(淡水での養殖)の生産額は、998億円でした。日本の水産業の生産額およそ4割は養殖によって賄われているのです。
養殖魚が臭い?養殖魚の品質について
魚の養殖というとどんなイメージをお持ちでしょうか?
養殖臭くておいしくない、天然ものよりも安くて劣ったもの、いろんな薬漬けになっていてなんとなく危ないもの、そんな負のイメージをお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか?だとしたら誤解です!
現在ではむしろ養殖魚のほうが高値で取引されている場合が多かったり、養殖のほうが美味しい期間が長かったり鮮度が良かったりすることがあるんです。
日本はいまだ『天然物信仰』が根強い
餌の品質向上で養殖臭はかなり改善している
養殖魚の味は与えられる餌に大きな影響を受けます。かつて『養殖魚は養殖臭い』と言われていた理由は、与えている餌が生餌(生の魚やミンチ)を与えていたことにあります。
昔はイワシが豊漁だったため、イワシが生餌のメインに利用されていました。そのイワシの脂からくる臭いが養殖魚に影響し、『養殖臭い』原因になったのです。
現在では餌の改良やより鮮度の良い状態での流通が可能になったため、養殖臭さはほとんどない魚が多くなっています。
養殖魚のメリット、デメリット
では、養殖にはどのようなメリット、デメリットがあるでしょうか。
養殖魚のメリット
安定供給
天然魚は日本全国、どこでどのような魚がどのくらい水揚げされるかまったく予想ができません。そのため、安定供給が難しくある日急に水揚げが多くなったり全く水揚げがなかったりするのです。相場の乱高下があるのは天然の魚の特徴といえます。
一方、養殖魚は出荷量をある程度調整することができるので相場の暴落が発生しにくいということができます。しかし天候や海流の変化や赤潮、伝染病の発生などで大量死が発生する場合もあります。
安定した最高鮮度・脂ののり
魚の美味しさは鮮度と脂ののりが非常に重要な要素となっています。養殖魚はこの2点を常に安定して高いレベルで提供しています。
養殖魚は適度な脂がのるように給餌タイミングと量を調整され、常にもっとも美味しい状態で出荷されます。
さらに養殖魚は鮮度の面でも天然の魚よりもはるかにグレードが高いです。活きたまま市場に運ばれるか、または丁寧に活〆および血抜きをして即座に氷水で冷やして流通しているため、常に最高鮮度の状態で味わえるようになっているのです。これは天然魚には決してマネできない大きなポイントです。
養殖魚のデメリット
海洋環境の汚染リスク
養殖漁業の課題
では養殖がこのまま伸びていけば水産業の未来は明るいのでしょうか?養殖業の課題を挙げてみます。
種苗採取、残渣などによる海洋環境への負荷
養殖は天然の魚をまったく使わないと思われることもありますが、種苗(しゅびょう)と呼ばれる稚魚や幼魚は海から採取することも多いです(ブリやウナギなど)。
また、生け簀での食べ残しや排泄物による海の汚染は無視できません。赤潮や青潮の発生要因になるなど深刻な問題となることもあります。
さらに、養殖魚の餌は天然の魚を漁獲して生餌として与えたり、フィッシュミール(魚粉)に加工してペレットとして与えます。餌となる魚はサバやイワシなどの多獲魚ですが、養殖魚の餌にするために乱獲状態になる可能性もあります。
餌となる魚粉(フィッシュミール)価格の高騰
世界的な養殖の需要増により、年々フィッシュミールの価格は高騰し続けています。給餌養殖(エサを与えて大きく育てる養殖方法)の場合、魚を育てる際にかかるコストの約6割が餌代といわれています。
安定した価格で流通できるのが養殖魚のメリットのはずなのですが、フィッシュミールの価格には非常に大きな影響を受けます。
日本企業よる養殖漁業の新たな取り組み
天然の水産資源がどんどん減少している日本では、これから養殖業はさらに重要な産業になってくるでしょう。
日本の養殖技術(とくに生食用の魚)は世界にも通用するといわれています。そんな中、技術を生かして様々な新しい取り組みがなされています。
『脱魚粉』でなんと虫を餌に!?
株式会社ムスカという企業は、なんとイエバエ(ハエ)の幼虫、つまりいわゆるウジ虫を残渣で繁殖させ飼料にしようとしています。かなり大胆な試みですが、天然の水産資源を使うことなく魚を養殖することができれば環境への負荷が遥かに少なく、しかもコストは大きく減少するでしょう。
世界に羽ばたく日本の養殖IoT技術
2016年4月に設立されたウミトロン株式会社は、海の持続可能な開発と魚の安全・安定供給を実現することをミッションとしているベンチャー企業です。
これまで生産者の経験やノウハウに頼っていた給餌(餌やり)の量や回数、時間などをコンピュータ管理することで、生存率を高めたり育成を早めたり、最適な給餌を実現することが期待されています。
大手企業による陸上養殖ベンチャー設立
2017年4月に三井物産株式会社より9億円を調達した株式会社FRDジャパンは、高度濾過技術を駆使し、海に依存しない完全循環型の陸上養殖事業を商業化させることを目指している企業です。
陸上養殖は悪天候や赤潮など海洋による影響を受けにくいうえ、区画漁業権等の漁業法による制約がないため未来の養殖方法と期待されています。現在日本ではトラフグやヒラメ、アワビなどが陸上養殖されています。
まとめ
■世界でも日本でも養殖業は今後伸びていくビジネス
■養殖魚は味も良く安定した生産が見込める
■種苗・餌・残渣や排泄物など天然資源にインパクトの少ない、持続可能な『責任ある養殖業』が求められている