子どもたちに『天草の海の誇り』と『科学的な思考』を。天草海部の活動を紹介

私たちめだか水産広報部は、水産業や魚の魅力をお伝えするべく、これまでに複数の企業や地域による取り組みを紹介して参りました。

この度ご縁があり、熊本県天草市で海を舞台にしてSTEM教育やSDGsに取り組む団体『天草海部(あまくさうみぶ)』の活動をインタビューさせていただくことができました。

天草海部は天草の海の魅力を発信し、未来の海を作っていくこと、これからの海の産業を担う人材を育成し、輩出していくことを将来的なビジョンとしている団体です。

それはまさに私たちめだか水産が掲げる『次世代のおさかな好きを創る』と非常に近いビジョンであり、そして同時に水産業に携わっている方々皆の願いでもあるのではないでしょうか。

水産業というと漁師が魚を獲って魚屋さんが威勢良く魚を売り捌くような、古臭くて衰退産業のようなイメージを抱くかもしれません。

しかし決してそんなことはなく、日本以外の世界では水産業は成長産業であり、人間が適切に管理することで持続的に利用することができる資源としてここ数十年で非常に注目を集めているのです。

天草海部とは?

「海から学び、地域を育てる」を目標に、熊本県・天草の海に親しみながらその魅力を発信し、これからの水産業を担う人材を育成するグループ。それが『天草海部(あまくさうみぶ)』です。

天草港

サポートメンバーなどを含めると『部員』は30名以上。海が好きで様々なスキルを持ったメンバーが集まり、多方面の角度から天草の海の魅力を発信することで未来にわたって持続的に利用できる環境をつくる活動を行なっています。

姉妹サイト『ブルーカーボンプロジェクト』では、天草海部の活動をブルーカーボン生態系(海洋生物による炭素隔離・貯蔵能を持った生態系)の保全の視点で紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。

情報発信と教育で海を守る。天草海部のブルーカーボンへの取り組み
https://ugal.jp/interview/599/
※『ブルーカーボンプロジェクト』webサイトへ移動します

水産業×データ活用

天草海部では、天草の魅力的な海の環境や資源の保護、資源を持続的に利用していくためには、様々なデータの収集と活用が必要であると考えています。

たとえば海の環境保全で代表的なアマモ場は、魚介類の産卵場所や稚魚の生育場所となることから水産業にも重要な立ち位置を占めるとされ、「海のゆりかご」と呼ばれ全国の漁場で再生をめざした取り組みが行われています。

実際のアマモ場。移植しても様々な条件が合わないと定着しない
実際のアマモ場。移植しても様々な条件が合わないと定着しない

しかし、アマモ場の再生にはどんな条件が必要なのか?そもそもアマモ場は実際に水産業にどのように、どの程度影響しているのか?

アマモの他にも、例えば漁師さんに魚が獲れなくなった原因を聞くと多くの方が温暖化のせいだとか黒潮の蛇行のせいなど色々な事をおっしゃるのだそうですが、それは本当にデータに基づいた事実なのか?ただの先入観ではないのか?

きちんとデータを収集し、水産業に携わる人たちが活用できるようにならなければ豊かな海を守ることも、産資源の持続的な利用もできない。そして、漁師さんをはじめとした誰もが扱えるデータでなければならない。同時に、科学的な思考を持ってデータを正しく分析・検証し、扱える人材を育成する必要性を感じたことから、そ子どもたち教育に力を注いでいるのだそうです。

代表の正角さんと天草海部の設立経緯

天草海部の『部長』正角雅代さん
天草海部の『部長』正角雅代さん

天草海部の『部長』を務める正角雅代(しょうかく まさよ)さんは宮崎県のご出身。幼いころからマリンスポーツや磯遊びなど海に深く親しんできた、無類の『海好き』です。

正角さんは長崎大学水産学部を卒業後に同大学院へ進学し、主に魚の生産に関わる研究をしていました。在学時に執筆されたシオミズツボワムシ(稚魚の餌となる微小生物の一種)に関する論文は、学会で論文賞を受賞しています。

同大学院卒業後、マダイやクロマグロなどを養殖する水産企業に6年お勤めになり、主に九州地方で養殖魚の生産管理業務に取り組みました。

干潟の生物相調査
干潟の生物相調査

ご結婚を機に同社を退職したけれど、それでもやっぱり海が好きで離れられない。なにか海に関わる活動ができないだろうか?と過ごす日々の中、正角さんは天草の子供たちがあまり海で遊んでおらず、海や海の生き物についてあまり知らないことに気付きます。

こんなにも素晴らしい海に囲まれている天草の地で、子どもたちが海の楽しさを知らないなんてもったいない。子どもたちに天草の海を誇りに思ってもらうきっかけを作りたい。という想いから、地元の海好きな人達を集めた『天草海部』を設立しました。

時にはプロのダイバーに潜水調査を依頼することも
『熊本ダイビングサービスよかよか』さんと連携したアマモ場調査
ダイビングショップ『熊本ダイビングサービスよかよか』さんと連携したアマモ場調査

天草海部は2014年2月に設立し、まもなく7年目を迎えます。正角さんは天草海部での活動が認められ、『海の宝!水産女子の元気プロジェクト』のメンバーにも選任されています。

水産業×IoT?多彩なメンバーが集まる団体

『海が好き』という大きな共通項で集まった天草海部。そのため、メンバーには魚の養殖を専門とする方、環境分野が得意な方、ITや機械技術に精通した方など、多方面の分野から専門スキルを持った方々が集まっているそうです。

実際の活動で大学や研究機関等と連携したり、リアルタイム動画配信による生物相調査やIoTを活用した水産養殖場のモニタリング、ドローンを使用した海洋調査など様々な最新技術を利用できるのは、それぞれの分野のプロの協力あってこそ。

熊本大学の先生と連携し、リモートで指導を受け干潟調査を行なっているようす

代表の正角さんは非常に行動力に溢れた方です。何か課題にぶつかると専門家やのところに飛んでいき、協力を募る。ときには突っ走って怒られることもあるのだとか。

どんどん周りの人を巻き込んでいく力と魅力のある方だからこそ、多くの方が信頼を寄せ、多岐にわたる活動が可能となっています。

もちろんそれでも失敗することもあり、苦労してアマモ場に設置したデータロガー(センサーにより水温や日照量などを計測・収集したデータを保存する装置)を回収したのに、装置の故障でデータが集計されていなくてガックリ。。。なんてこともあるのだとか。

豊かな3つの漁場に囲まれた天草。

正角さんを魅了してやまない天草の海。天草は有明海、八代海【やつしろかい。不知火海(しらぬいかい)とも】、天草灘(東シナ海)という3つの豊かな漁場に囲まれています。

温暖な気候から養殖がさかんに行われており、熊本県の『県魚』でもあるクルマエビの養殖はなんと天草が発祥の地とされています。

天草はクルマエビの全国有数の生産地であり、今では活きたまま全国の市場などに出荷され、お寿司屋さんや天ぷら屋さんなどが仕入れ、高い評価を得ています。

安定した量と高い品質を誇る天草の養殖クルマエビ
安定した量と高い品質を誇るクルマエビ

それぞれ異なった特徴をもつ海では季節ごとに多種多様な魚介類が水揚げされ、全国に豊洲市場では天草産の天然マダイやタチウオ、ハモ、サワラなどは鮮度・色・脂のりが良いとされ高値で取引されています。

天草の魅力は水産業だけではなく、大小120にもおよぶ多島地形や、天草富士とも呼ばれる龍ヶ岳など何年住んでいても飽きない美しい景観や、海が入り組んで湾のようになっているため安全に海水浴や海のレジャーを楽しめる点も、正角さんが天草に惚れ込んだポイントだそうです。

正角さんを魅了する天草の景色

天草海部の主な活動内容

STEM教育

STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engeneering(光学)、Mathmatics(数学)それぞれの頭文字を取った言葉で、STEM教育は科学・技術・工学・数学の教育分野を総称した教育プランを指します。

天草海部は「海から学び、地域を育てる」を目標に、IoTを活用した水温・照度測定システム、ドローン、YouTubeなどの動画メディア、ZOOMなど様々な先端技術を活用し、海を題材にしたSTEM教育やSDGsの啓蒙、水産業のデータ活用などに取り組んでいます。

養殖いけすに設置した360℃カメラのVR体験
養殖いけすに設置した360℃カメラのVR体験。子どもは喜ぶが高齢者は寄ってしまうのが課題なんだとか。

体感・体験から学びにつなげる活動を強く意識し、子どもたちが自ら科学的思考を持って考え行動できるようになる事を目標としているそうです。

STEM教育と聞くとなんだか難しい印象がありますが、実際の活動は小学生でも興味を持って楽しんで取り組める内容になっています。

過去に行った【水産養殖いかだ×IoT】のプログラムでは、簡単なセンサー作り体験から実際の養殖場での餌やり、水中ドローンを使って撮影したりと機械好きの子どもから海好きな子どもまで皆が楽しむことができ、興味の幅が広がる上に『水産×IoT』という最先端の技術も学べる機会になっています。

楽しんでできる作業を通して最先端の技術を学ぶ
楽しんでできる作業を通して最先端の技術を学ぶ

実際の【水産養殖いかだ×IoT】プログラムのようす

SDGs活動

天草海部では、最近になって一般にも馴染みが深くなったSDGs(持続的な開発目標)にもいち早く取り組んでいます。

SDGsと水産業とは関係があるのか?と思う方もいるかもしれませんが、実はSDGsのひとつに『海の豊かさを守ろう』という目標が定められています。

海ごみ回収活動

海洋ゴミや富栄養化を防ぐこと、魚をはじめとする海洋資源の持続的管理や保護を行うこと、海と沿岸の生態系を回復させるための取り組みを行うことなどが求められています。

天草海部では海ごみの回収や、干潟の生物調査、磯遊び、シュノーケリングなどを通して海や海の生き物の面白さ、尊さを子どもたちに感じてもらうことで生態系の大切さを伝え、SDGsを考えるきっかけを作っています。

子どもたちが張り切る海の生き物観察会
子どもたちが張り切る海の生き物観察会

天草海部の目標・ゴール

正角さんはこうした活動を通じて、子供たちだけでなくその親世代である大人も楽しみながら豊かな天草の海に親しみ、知ってほしい。天草の子どもたちには魅力あふれる天草の海を誇りに思うきっかけになってほしいと語ります。

水産業が、膨大なデータを科学的な思考で分析し活用できるような優秀な人が入ってこれるような素晴らしい業界になってほしい、水産業界全体のレベルアップを図りたい。正角さんのインタビューを通して、そんな熱い思いを感じました。

2021年10月、天草海部は日本経済新聞社が主催する、ソーシャルビジネスの発展と理解促進を目指し、SDGsをテーマに社会課題を解決するアイデアやビジネスモデルを発表する『日経ソーシャルビジネスコンテスト』のファイナリストに選定されました。

天草の海から着実に一歩ずつ前進し、日本中、世界中に海の素晴らしさと楽しさを伝えていく天草海部。

私たちめだか水産も同じ目標を掲げた同志として、これからも活動を遠くの地から応援して参ります。天草海部の挑戦にご注目ください。

天草海部のWEBサイトは下記のボタンからどうぞ。

天草海部 Twitter:https://twitter.com/amakusaumibu
天草海部 Facebook:https://www.facebook.com/amakusaumibu/
天草海部 ブログ:https://ameblo.jp/aromamaslife/
この度はお忙しい中取材にご協力いただき、誠にありがとうございました。

取材協力:天草海部 正角雅代様

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